2020年9月28日 (月)

2020年度秋セメスターに向けて

当地で、国内最高気温41.1℃を記録した酷暑も過ぎ去り、秋分を迎え、これから次第に秋が深まってきます。大学では先週(9月24日)のガイダンスから秋セメスターが始まりました。大学にも活気が戻り、学生皆さんの表情から、秋セメスターに向けてのモチベーションの高まりを感じます。とは言え、新型コロナウィルス感染症の不安も頭をよぎります。この秋セメスターも、学生・教職員の安全・安心と、教育・学修の質保証が目標です。また秋セメスターには、各種の行事(聖灯祭、ホームカミングデー、卒業・修了式など)が予定されています。通常開催を基本とし、活動指針の危機管理レベルを参照しながら、代替案を準備して臨機応変な対応が求められます。

 

全国の国公私立大や短大、高等専門学校(回答数1060校)のこの秋以降の授業形態は、文部科学省の調査結果では、全面的に対面とするのは2割弱、オンラインによる遠隔と対面を併用とするのは8割ということです。感染リスクを恐れ過ぎて、学生の学びを放棄したり、教育の質が低下してはいけません。ある程度のリスクを想定しつつ、教育を推進していきます。本学では、対面授業を基本にして一部は遠隔授業も活用し、その教育成果や授業評価、満足度調査を行って、次年度以降の教育改革に活かしていきます。

 

学長ブログ2020年6月」でも執筆したように、教育の本質は、学生と教員が対面授業を通して学び合うことにあると思います。特に本学のように、保健医療福祉教育の専門職業人を育成する大学では、知識の伝達だけではなく知識の共創、共感による人間性の涵養、専門的な技能の修得のためのハンドリングが重要です。私は、大学の本質的価値はオンラインでは提供できないと思っています。大学の価値の一つは、共に出会い、共に学び合うことです。コロナ禍においても、それを実現できるよう創意工夫をしていきたいと思います。

2020年7月31日 (金)

ポストコロナに向けて:忘れずつなぐこと

7月に入って、右肩上がりに新型コロナウイルス感染症が再び首都圏から全国に拡大し、第2派の様相を呈しています。浜松市においてもクラスターが発生し、日々感染者が報道され予断を許さない状況です。本学学生も罹患し、危機管理体制を厳重警戒レベルとし、感染予防と抑制に向けた周知徹底を告知しています。学生・教職員の安全安心と、学習の質保証、学ぶ権利と自由などとの両立を模索することがまだまだ続きます。

 

一方、今年は過去になく梅雨前線が列島に長く停滞し、7月初旬には記録的な豪雨に見舞われ、熊本県など広域で甚大な被害をもたらしました。新型コロナウイルス感染症の影響で苦境にあえいでいた観光地にも壊滅的な打撃を与え、「ようやく客足の回復の兆しが見え始めた矢先に・・・」「またこんな仕打ちを受けるとは・・・」という悲痛の声が聞かれます。

 

近年の度重なる甚大な自然災害や新興感染症の出現は、地球温暖化と深く関係しています。自然破壊、地球温暖化、野生動物と人間の境界の消失、新興感染症の発生、そしてこれらと人間の生命と生活は密接に連鎖し、その代償が今顕在化しています。私たちに与えられている大きな恩恵は、失ってはじめて気づかされます。しかし残念ながら、これからも自然災害や新興感染症の発生、それらによる生命と日常生活の危機は繰り返されるでしょう。それを防ぐには、まさに今、私たちがその渦中にいて経験した(している)ことや逡巡する思索を忘れずに未来につなぐことでしょう。そのことが今を生きている私たちの責任と使命でもあると思います。

2020年6月30日 (火)

ポストコロナに向けて:利他の心

6月15日、通学による授業を再開しました。大学では、感染予防と「新しい生活様式」を取り入れながら、次第に明るさとアカデミックな活気が戻ってきています。教育の本質は、心身の共感と共創を通して学び合う“面授”にあると実感しています。

 

6月19日には、全国の移動自粛要請が解除されました。報道では感染拡大前と変わらない状況に戻りつつあり、首都圏では感染者も一時より増加傾向にあります。1918年に始まったスペイン風邪は第2波の被害が大きかったという過去の教訓を覚えると、油断なく備えが必要です。

 

4月16日に放送されたNHK「緊急対談 パンデミックが変える世界 ~海外の知性が語る展望~」でインタビューを受けたジャック・アタリ氏(フランスの経済学者・思想家)の、「利他主義への転換。『他者のために生きる』という人間の本質に立ち返らねばならない。」という言葉が印象的でした。利他の心は、他者への思いやりや配慮ある行動です。コロナ禍ではマスクをつける、手洗い・手指衛生を励行する、3密を避ける、控えめに話すなどのエチケット(マナー)が、他者の健康を守り、ひいては自分を含む私たちの日常の生活を守ることになります。利他の心は、強制や監視、管理独裁主義ではなく、一人一人が他者との信頼関係(共感)を築き、責任ある行動を主体的に示すことで涵養されるものでしょう。それには、教育こそが重要です。

 

ポストコロナの時代(21世紀)は、命と健康、生活と福祉を守る保健医療福祉・教育の時代であると改めて感じています(アタリ氏は「命の産業」と表現しています)。本学では、「生命の尊厳と隣人愛」を実践し、他者を思いやる利他の心をもった専門職業人の育成を目指します。

2020年5月28日 (木)

ポストコロナに向けて:レジリエンスと教育のパラダイムシフト

学生の皆さんが段階的に大学に戻ってきています。学内の雰囲気も、明るく活気に満ちてきたように思います。本学では、いち早くオンライン体制を整え、4月15日よりオリエンテーション、4月20日より遠隔授業、そして5月18日から分散登校を開始しました。また、6月15日からは通常の教育及び大学運営を再開する予定です。この間、学生皆さんの学修の歩みを止めることなく学修が継続できました。学生皆さんの学修への取り組みと、それを献身的に支えてきた教職員一人ひとりの力と協働に対し、感謝と敬意を表します。

 

一方、これでCOVID-19が終息したわけではなく、しばらくはウイルスとの共生が求められます。感染第2波や第3波も考慮して、気の緩みを防ぎ、危機管理を高いレベルで維持したまま、「新しい生活様式」を取り入れた教育及び大学運営を継続しなければなりません。またコロナ前の教育方法に戻すのではなく、教育と人材育成の質保証をさらに推進するためにも、コロナ禍において修得したオンライン等の教育手法も活用した「新たな教育・大学運営」を推進し、教育のパラダイムシフトをめざします。

 

最近、「レジリエンスresilience」という概念が各分野で言われます。「回復力、適応力」などと訳される言葉ですが、元の状態(ベースライン)に戻る力ではなく、変化する環境や課題に対し、自ら(個人・組織などの在り様)を変化させて、ベースラインを越えてより良い状態に飛躍(パラダイムシフト)する力、すなわち弱さを強さに変える力であるといえます。人類の誕生以来、私たちは幾多の致命的な困難を乗り越えて、レジリエンスを身につけてきました。このことが人類進化の推進力にもなっています。私たちは今、このレジリエンスが問われています。組織のレジリエンスを高めるには、多様な一人ひとりの尊重、共感と信頼と寛容な結びつき(絆)、そして変化を受け入れる組織風土が必要と思います。ポストコロナにおいて、私たちがどのように進化しているのか楽しみにでもあります。

2020年4月20日 (月)

新型コロナウイルスの感染拡大から学ぶ

桜の花びらが美しく舞っています。今年は、新型コロナウイルスの感染拡大で、学生の皆さんと満開の桜並木を楽しむことができませんでした。来年は、若葉が萌え、若さ輝く清明のときを共に迎えたいと願います。

 

本学では状況分析と学生・教職員の安全安心、感染拡大の防止のため、授業開始を遅らせるとともに、開講後もオンライン授業を行います。本学ではここ数年、ICTを活用した教育に力を注いできたことが幸いでした。全面オンライン授業は新たなチャレンジですが、「災い転じて福となす」「万事塞翁が馬」の故事のように、これを契機に各教員の授業のスキルアップと、教育の進化が期待されます。私たちは今、新たな歴史の転換期にいるようにも感じています。

 

一方、通学による対面授業のタイミングも見計らい、準備を進めています。本学は保健医療福祉教育の専門職業人を養成する大学ですので、演習・実習の授業形態が重要な位置づけです。感染拡大・収束の状況を見極めつつ、どの程度管理を強化し教育の自由を統制し得るか、リスクをある程度受け入れつつ教育を遂行し得るか、分析力、決断力、そして私たちのチーム力(one team)が問われます。一人の学生も教職員も取り残すことなく、感染リスクヘッジと教育の責任、教育水準と人材育成の質保証の両立を図る模索を続けています。当面は、オンライン授業を併用しながら、段階的・分散化による対面授業を計画しています。

 

私たちは今、経験したことのない、先の見えない状況であります。しかし、このようなときこそ、大学の真価が問われると思います。教職員が一丸となって、教育(者)の責任を果たさなければなりません。コロナウイルスが収束するとき、私たちがこの課題にどのように対峙してきたか、その経験が大きな強みとなっていると信じます。

2020年3月23日 (月)

2019年度卒業式・修了式:人々の安寧と幸福を導く 現代のクリストファーへ

今年度の卒業式・修了式は、新型コロナウイルスの感染予防策を講じ、規模を縮小しての開催でしたが、関係皆様のご理解と協力によって、伝統を守り、厳粛に執り行うことができ、心より感謝いたします。卒業生・修了生の皆さんも、この人生の大切な節目を通して、保健医療福祉教育の専門職業人としての使命と責任の自覚が深まったように感じます。今も、皆さんの喜びと誇らしい笑顔が目に浮かびます。一方、ご家族の皆様の出席がかなわなかったことは、断腸の思いです。卒業生・修了生がこの良き日を迎えることができましたのも、ご家族の支えがあったからです。心より感謝申し上げます。

 

新型コロナウイルス感染症の終息の兆しが見えません。社会は、あらゆる面で深刻な状況に直面しています。社会の封鎖、分断と差別、感染者への攻撃や排除さえも生じています。恐れるべきは、不安や恐怖心によって、人間の理性が失われることです。このような時にこそ、目に見えない恐怖に惑わされず、冷静さを保ち、良心に従って行動することが必要です。

本学の建学の精神は、キリスト教精神に基づく「生命の尊厳と隣人愛」です。それは、聖隷の創立者たちの生き方に表されています。私たちの先人は、当時まだ不治の病で、感染の恐怖から忌み嫌われた結核病患者と共に生き、迫害と困窮に耐えながら、自らの命をも犠牲にして、隣人に愛を尽くされました。この先人が身をもって示した、自己犠牲に基づく「生命の尊厳と隣人愛」の実践が、私たちが遵守すべき信条であり、行動規範です。この信条を受け継ぐ卒業生・修了生の皆さんが、「生命の尊厳と隣人愛」の精神を実践し、社会の安寧と発展に尽くされることを期待しています。

 

新型コロナウイルス感染症が一日も早く終息し、世界の安寧と平安が回復することを祈ります。

2020年2月 4日 (火)

グローバリゼーションの教訓

昨年12月末、中国湖北省武漢市当局が原因不明の肺炎患者の確認を発表しました。その後、新型コロナウイルス「2019-nCoV」関連肺炎であるとされ、感染拡大が懸念されましたが、1月15日には日本国内でも初の感染者が、28日には渡航歴がないバス運転手にも感染が確認されました。ひと月足らずの速さで、人から人への感染が国内にも及んだことになります。その背景には、グローバリゼーションによる人の活発な流れによる影響が大きいとの有識者の指摘です。WHO(世界保健機関)も、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました(1月31日)。しかし、本日(2月4日)時点でもなお、中国では感染拡大が続き、患者の数が2万人を超え、死亡した人も425人に上り、日本でもウイルス検査の強化と感染症対策を促しています。

 

本学でも、この2~3月はアメリカ(本土、ハワイ)、中国、シンガポール、インドの大学や病院・施設での交流事業や研修・実習の国際教育プログラムの期間です(グローバル教育推進センター)。しかし残念ながら、今回の交流活動はすべて中止を決定しました。学生も楽しみにしながら熱心に事前準備に取り組んできましたが、学生及び引率教職員の安全第一のためにはやむを得ない適正な判断であったと認識しています。

 

本学は、この地域とともに世界の保健医療福祉・教育にも貢献し得る人材の育成を教育目標に掲げ、国際教育プログラムを推進しています。そのような中、今回の事態は、グローバリゼーションと瞬く間に世界中に拡がる新興感染症の脅威を再認識させ、危機管理のあり方に大きな示唆を与えた事態でもありました。新興感染症をはじめ、学生・教職員の安全安心に対する危機管理意識をさらに高め、学内及び交流協定校との連携協力体制の強化整備に向けた教訓にします。

 

感染拡大が続く中国へ、各地から支援の輪が広がっています。国境を超えたグローバリゼーションの正の側面です。罹患された方々のご回復、困難な生活を強いられている方々の安寧、そしてこの感染が一日も早く終息し世界の平安を祈ります。

2020年1月20日 (月)

次の時代に向けた教育と人材育成の質の向上と組織づくりを目指して

2020年、混迷の時代にあっても、人間のもつ理性とヒューマニティーによって希望の未来が築かれることを信じます。

 

新しい年を迎え、今年はさらなる内なる充実に向けて、教育と人材育成の質の向上と、強固な組織づくりを目指します。そのため、以下の3つのキーワードを大切にしたいと思います。

 

「自律自治」。読んで字の如く、「自らを律し、自らを治める」という意味です。本学は種々の教育改革に取り組み、教育改革は大きく前進し、教育の質保証に向けたフレームワークも整備されてきました。今年はこれまで取り組んできた改革内容を自律自治の精神で、今一度再点検し、取捨選択・整理統合するなどして、さらなる教育の質の向上を目指します。

 

「one team 」。昨年、ラクビー・ワールドカップの日本チームの活躍によって流行語大賞となった言葉です。私たちの教育活動もラクビーと同様、教職員一人ひとりの力以上に、「チーム力」によるものです。私たち一人ひとりは多様な能力、専門性、価値観や考え方を持っていますが、私たちの身体が多様な臓器から成り立って一人の人間がつくられると同じように、教育活動も多様な一人ひとりの連携協働によって成り立っています。その多様な一人ひとりがone team になって誠実に教育活動を行い、教育と人材育成の質の向上を目指します。

 

そのために、「明るく、楽しく、笑顔で」を今年のモットーにします。人間は感情の動物でもあります。私たち一人ひとりが「明るく、楽しく、笑顔で」あれば、それは学生にも教職員にも伝播していきます。また感情は思考と密接に関係しています。私たちは日々多くの課題に直面しますが、「明るく、楽しく、笑顔で」をモットーにして課題に取り組むことで、より良い課題解決と教育成果につながるでしょう。

 

「自律自治」の精神を大切に、「one team 」で、「明るく、楽しく、笑顔」をモットーにして、次の時代に向けた教育と人材育成の質の向上のため、強固な組織づくりを目指します。

2019年11月30日 (土)

混迷する大学入学共通テスト

2020年度入試が始まりました。受験生皆さん一人ひとりが十分に力を発揮され、それぞれの希望や夢が叶うことを祈っています。また残念な結果であっても、それを前向きにとらえて次のステップに向かわれることを願います。

 

さて、大学入試センター試験に代わって2021年度入試から始まる大学入学共通テストの迷走が止まりません。英語4技能「読む・聞く・話す・書く」の能力の育成に向けて、意気込んで導入が予定された大学入試英語成績提供システムは受験生の公平性の問題などから、文部科学省は見送りを決めました。この決定を受けて、多くの大学は英語民間試験の活用を取りやめる方向で調整を図っています。また続いて、国語と数学の「記述式」も、採点を民間事業者に委託することや、自己採点と実際の成績の食い違いなどなど、採点の公平性、公正性、厳正性などの課題が指摘されています。一方、先日、世界各国の15歳の子どもの学力を測る国際学力調査(「PISA(ピザ)」)の結果が公表され、日本の子どもは科学と数学はトップレベル(それぞれ5位と6位)を維持したものの、読解力は前回調査より順位を7つ下げて15位という結果でした。大学入学共通テストに記述式を導入することによって思考力、表現力、判断力を育てる授業に変わり、読解力や表現力、そして創造性を養えることが期待できるとともに、大学入学試験で重視されるべき厳格性、公正性、公平性の保証をもはかることが求められます。

本学においても、文部科学省等の課題解決の動きに注視しつつ、アドミッションポリシーの観点からも関係部門と協議し、近日中に方針を確定する予定です。2021年度入試を控える受験生皆さんが試験制度に惑わされないよう、大学の自律自治を遵守し、責任ある対応をはかって参ります。

2019年10月31日 (木)

礼拝説教「隣人を愛すること」

本学は、「生命の尊厳と隣人愛」の建学の精神を涵養するため自校教育の一環として、週に一度、礼拝の時間を設けています。祈りを捧げ、聖書を読み、賛美歌を賛美し、奨励のお話を聴き、自分自身をみつめる大切な時間です。奨励の話は、キリスト者だけではなく、本学の役職者である学長・3学部長も登壇します。

 

先日は私が登壇し、私が日々感じている、隣人を愛することについてお話ししました。私たちは、本学で隣人を愛することの大切さを学びます。しかしそれは一方で、隣人を愛することの難しさをも知ることでもあります。私たちはどうしても、利己主義や自分本位、自己欺瞞に流されます。人間の心の世界には2面性があります。愛と無関心、愛と不信、愛と傲慢さ、愛と怒り、愛と憎しみ、愛と恨み、愛と残忍さ・・・・。隣人を愛することは、このような自分自身の弱さや心の闇に向き合い、心の良い部分を育てていくことではないかと思います。

 

医療福祉教育の仕事には、その人の人格が現れます。愛あるケアの実践には、共にいること、真に向き合うこと、共に心を痛めることが求められます。その人のところまで、自ら降りていくことが必要です。そのためには、外に向かう心だけでなく、内なる世界を充実させる礼拝のような静まりと内省の時間が必要でしょう。