2018年11月30日 (金)

心の医療と教育

先日、第63回日本新生児成育医学会・学術集会に参加いたしました。教育セミナーのコメンテーターと、サテライトセミナーの講師をさせていただきました。本学会は、乳幼児の成長と発達を支援する医師や看護師など医療職者を対象とした学会です。今回の学会でも、科学的根拠に基づいたエビデンスベースの医療(evidence-based treatment/practice)の研究成果が示されています。一方、教育講演やシンポジウムでは、医療における心への語りかけの医療ナラティブ・アプローチ(narrative-based approach)の大切さも指摘されました。その両者の視点と感性を持つことの大切さを改めて感じた、あたたかく素晴らしい学会でした。

 

日本における新生児医療は世界のトップレベルです。いわゆる未熟児の赤ちゃんの救命率は他の先進国と比較して高く、看護ケアも赤ちゃんと家族に大変優しいケアが推進されています。赤ちゃんの救命とともに、tender loving care(優しく思いやり深いケア)、family-centered care(赤ちゃんと家族を中心としたケア)が我が国の新生児医療の基本理念になっています。それは日本の医療者の相手の心をおもう繊細さによるものでしょう。

私達は、その医療者の心を大切に育成しなければなりません。ややもすると、科学的な根拠に偏った心を忘れた医療に流れていくきらいも感じます。医療は、科学的根拠に基づいた治療やケアを適切に活用するとともに、その背景には対象者の心のケアがなされなければなりません。「サイエンスとアート」と言われる所以です。

赤ちゃんもまた心を持った存在です。心の発達基盤となる快・不快を表します。その心の状態を察知して、その心に寄り添うケアを行うことで、赤ちゃんのあたたかな心が育ちます。愛された人(loved one)は、自分自身をも愛すべき者(lovely one)に、やがて人を愛する者(loving person)へと成長していくでしょう。

 

本学の歴史の始まりには、はじめに愛がありました。当時は、医療者と医療を受ける人々の心の交流と癒やしに基づいた医療でした。私たちは保健医療福祉を担う専門職業人を育成する教育者として、先人が実践してきた愛による癒しの医療を再確認し、そしてそれを支える医療者の心をも大切に育成することを再認識した学会でした。

2018年10月31日 (水)

2040年の高等教育に向けて

過日、日本私立大学協会第149回秋季総会が仙台にて開催されました。主要なテーマは、2040年の高等教育に向けての論点整理と課題解決の方略についての検討でした。

2040年には、人口は1億2,500万人(2018年度)から1億728万人となって1,800万人も減り、18歳人口も2017年の120万から88万人になる推計です。2040年が高等教育の大きな転換期となるということで、大学は強みや特色の強化を図り他大学との差別化を明確にして、学修者中心の質の高い教育を提供することが問われることになります。また社会の背景は、超スマート社会(Society 5.0)といわれるように、IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)、ロボットなどの技術革新が進展し、今までにない新たな価値や社会システムが生み出されるといわれます。加えて健康寿命が延伸し、人生100年時代のシニアの活躍や、外国人雇用などによるグローバル化がさらにすすみます。このような社会背景のなか、大学は建学の精神を遵守・堅持するとともに、学修者中心の質の高い教育を提供し、社会に貢献する人材を輩出しなければなりません。

 

本学における教育改革は、現在以下のような取り組を行い、他大学には無い質の高い教育を目指しています。

・現場での実践教育の充実:聖隷グループ等の病院施設や地域での実践

・教学マネージメント:学修者を中心とした教育の質保証と学修成果の可視化

・2040年に必要とされる人材育成:技術革新を活用した教育カリキュラムと教育方法

・卒業生・修了生のマルチステージでの活躍(キャリア)支援

・社会人の学び直し支援(リカレント教育)

・高大接続入試改革:保健医療福祉領域への関心の喚起

・地域連携(産学官連携プラットフォーム形成)等による地域貢献

・グローバル化への対応:英語教育の充実、海外交流協定校等々の研修・実習

 

本学は、建学の精神「生命の尊厳と隣人愛」に裏付けられた保健医療福祉の専門職業人の育成を通して、人々の健康と幸福、そして地域と世界の福祉に貢献することが使命です。そのためには、一人ひとりの学生が柔軟な強い精神と他者を愛する豊かな人間形成を目指し、専門的な知識と技術を身につける事が必要です。普遍的な建学の精神を尊重し、一方では次の時代を見据えた教育改革をすすめ、未来を担う保健医療福祉の人材養成を目指します。

2018年9月28日 (金)

今流れつつある時間を大切に生きる

日々の仕事に追われ、我々は何者であるかを見失いがちになります。毎月の大学部長会及び教授会で、その時々に応じた聖句が宗教主任の先生から教員に送らます。建学の精神を再確認し共有する良い機会となります。今月9月の聖句は、フィリピの信徒への手紙 3章13節(目標を目指して)でした。

 「なすべきことはただ一つ、後ろのものを忘れ、前のものに全身を向けつつ、・・・目標を目指してひたすら走ることです。」

夏休みが明け、秋セメスターの始まりにおいて、学生を迎える時期に相応しい聖句です。時間には物理的時間と心理的時間があります。物理的時間は、いわゆる時計の時間で、それは1分1時間と量的に皆に共通です。一方、心理的時間は、その時々の時間を一人ひとりがどのように過ごすかによって変わってくる質的な時間です。哲学者ベルクソンは、心理的時間を「流れつつある時間」と表現しました。今この時の流れつつある時間を大切に生きることが、それぞれの人生を豊かにすることを表わしているのでしょう。私たちには自由意志があります。今のこの時間をどのように過ごすか、その選択が委ねられているのも人間の素晴らしさです。

もう一つ、この聖句がパウロによる書簡であることから読むことができます。パウロは、はじめは熱心なユダヤ教徒で、キリスト教徒を激しく迫害をもしていましたが、イエスに出会いキリスト教徒に回心した人物です。この聖句の「・・・後ろのものを忘れ、前のものに全身を向けつつ、・・・」には、過去の自分に決別し新しい生き方をするという意味が込められているようです。同様に、パウロによる書簡であるコロサイの信徒への手紙(3章9節)には、「古い人をその行いと共に脱ぎ捨て、造り主の姿に倣う新しい人を身に付け、日々新たにされて、真の知識に達するのです。」とあります。今、この流れつつある時間を生きること、過去にとらわれない新たな生き方をすることは、新しい人へ成長することでもあります。

秋セメスターの始まりにあたって、学生皆さんが、今流れつつある時間を大切にし、日々新たに成長されることを願います。

2018年8月30日 (木)

聖隷歴史資料館の人体骨格標本

先日、来客者があり、学内に設置してある聖隷歴史資料館をご案内しました。歴史資料館には、1926年(大正15年)、長谷川保ら若きクリスチャンによって創立された社会事業「聖隷社」の歴史の始まりから、今日の聖隷学園及び聖隷グループの沿革と史料が展示されています。我が国の保健医療福祉・教育の発展を支えてきた聖隷の事業と、その精神をみることができ、その学術的価値も大変貴重なものです。

この資料館に、1体の人体骨格標本が置かれています。その人体骨格標本は、本学創立者の長谷川保先生の献体によるものです。先生は日頃から、「神様からいただいたものは、全て神様へお返しする」と言われていたそうです。聖隷の根底にある、創立者の想いを知ることができます。

丁度その折、本学の解剖学の教授から、解剖学実習の献体について、お話を伺いました。本学の解剖学等でもお世話になっている浜松医科大学の開学当初、献体が少ない状況が続いたそうです。当時、聖隷三方原病院や聖隷浜松病院の医療、並びに本学の看護・介護福祉の教育には、浜松医科大学からの医師派遣等の医療支援や非常勤講師等の教育支援をいただいており、その献体の事情を聞かれた長谷川保先生が中心となって、献体の支援組織「新天会」を発足されました。長谷川保先生自身も、会員第一号として登録され、献体活動に寄与されました。これを契機に、会員登録者が増え、献体が不足することなく解剖学実習が可能となったとのことです。また、浜松医科大学の解剖学実習室内には、生前に聖隷病院に奉職された医師ご夫妻の骨格標本2体があり、これも新天会からの献体と聞きます。ここにも、聖隷の精神が、医学教育と医療保健福祉の発展に貢献してきた史実を知ることができます。 

全てのものは神様へ、この教えは容易に実践することはできないように思います。しかし、聖隷の歴史や本学の教育は、神様への感謝と畏敬に基づいた、先人の生き方や実践の上に成り立っていると、人体骨格標本を拝見するたびに痛切に感じます。

(参考)

・聖隷歴史資料館 https://www.seirei.ac.jp/history-material-pavilion/news-from-museum.html

・浜松医科大学白菊会 http://www.hama-med.ac.jp/education/fac-med/dept/organ-tissue-anatomy/shiragikukai.html

・「新天会」聖隷福祉事業団本部(浜松市住吉)事務所

2018年7月31日 (火)

春セメスターの終わりを迎えて

連日、日本各地で最高気温を記録する猛暑が続いています。大学では定期試験が始まり、学生皆さんが、学生ホールや図書館ラーニングコモンズで自己学修をすすめています。一人ひとりが暑さに負けず、この春セメスターの学びを総括されることを祈念しています。

先日、書店でたまたま目にした(「あなたの人生の意味」デイヴィッド・ブルックス著、夏目 大訳、早川書房)を購入し、“アダムⅠ”“アダムⅡ”という言葉に出会いました。もとは、Joseph B. Soloveitchikが“Lonely Man of Faith”という本で、人間の対立的な2つの自己を表現した言葉だそうです。アダムⅠは外に向かう自分で、何かを築き上げたり、生み出したり、発見したりすることを望む社会的成功を求める自己です。アダムⅡは内に向かう自分で、謙虚さや道徳的資質など自分の精神世界を大切にする自己です。他人に愛を注ぐこと、奉仕すること、自己を犠牲にすること、良き存在であることを求め、深みのある人間を目指します。Soloveitchikは、アダムⅠとアダムⅡは、常に自分の中でゆらいでいるといいます。

学生の皆さんは今、人生の正午前を過ごしています。夏の太陽が外に向かって燦々と輝く、アダムⅠの世界にいるようです。しかし正午を過ぎると、アダムⅡが私たちを支えることになってくるでしょう。私たち聖隷の先人は、聖書の教えに従い、アダムⅡの生き方を大切にしてきました。そして現在の私たちがあるように思います。

本学では、週1回の礼拝で、黙祷を捧げ、奨励を聴き、静かに自分の心を見つめます。この春セメスターを終えるにあたり、皆さんが学んだ知識や技術とともに、礼拝の一時をも振り返って、アダムⅡの生き方を考えてみると良いでしょう。

2018年6月28日 (木)

未来を見つめる

七十二候の「腐草為螢(くされたるくさ、ほたるとなる)」のときです。昔の人は、腐りかけた草の下で蛍が光る情景をみて、腐った草が蛍になるのだと信じていたといいます。このような人間の豊かな感性と情操が、創造的な文化と社会を生み出してきました。IoT(Internet of Things)、AI、ロボットなどによって、私たちの生活や社会環境が変化する現代社会において、人間の感性と情緒の豊かさがよりクローズアップされ、人間の尊厳や幸福とは何か私達は問われることでしょう。

さて、大学では2019年度入試に向けて、オープンキャンパスや大学説明会が始まりました。多くの高校生や保護者の方々にご来学いただき、教職員や在学生から生きたアドバイスをもらって、「ここに行きたい!」という気持ちが高まっているように感じます。本学の場合、オープンキャンパス等の参加者は、将来なりたい職業と大学選択が結びつくことから、目的意識が高いようです。アンケートをみると、「将来なりたい仕事に直結した学部学科がある」「教育環境や実習が充実している」「教育レベルが高い」「国家試験の合格率が高い」「就職に有利」「教育理念への共感」「保健医療福祉の総合大学」「大学院がある」「国際交流が盛ん」「卒業生が活躍している」「聖隷グループの大学」など実質的な回答が多く、本学のことを良く研究されていると関心します。生の大学を見に来ていただき、本学の魅力を感じとって、進路選択に役立てていただきたいと願います。

我が国は今、人口減少、少子高齢化、多死の時代です。2016年の統計では出生数約97万人、死亡数約130万で、その乖離はますます進展しています。また静岡県では、若者の首都圏への流出が大きな課題です。このような社会情勢の中、この地域の人々の生命と生活、教育・福祉を守り支える人材育成が不可欠です。受験生の皆さん、人間の真の幸せや豊かさ、そして、この地域の未来に自分自身がどう貢献できるか、未来を見つめてください。

蛍のように、それぞれに与えられた生命が輝くことを祈念いたします。

2018年5月29日 (火)

小島操子先生 2018年春の叙勲受章の慶び

学長室の窓から、実をつけはじめた紫陽花がみえます。新人生の皆さんは、入学から2ヶ月が過ぎ、大学で学ぶことの楽しさや喜び、また難しさも感じ始められている頃のように思います。学生ホールや図書館ラーニングコモンズ、演習室で、級友や先輩後輩や先生方と、ディスカッションが弾んでいる様子をみると嬉しくなります。保健医療福祉のプロフェッショナルを目指す学生として、日々自己研鑽し、長い視野で自身のキャリアを形成していっていただきたいと願います。

さて、この度、本学前学長で名誉教授の小島操子先生が、2018年春の叙勲にて瑞宝中綬章を受章されました。先生の栄誉を称え慶びとともに、本学にとっても大変名誉なことと大変嬉しく思います。先生は、看護(学)のパイオニアとして、我が国の看護(学)と医療の発展に大きな役割を果たしてこられました。1959年に看護師免許を取得され、1965年に米国ニューヨーク大学看護学部がん看護課程を修了され(フルブライト奨学生)、1976年にミネソタ大学大学院修士課程を修了されました。その後、千葉大学、聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)、大阪府立看護大学学長(現:大阪府立大学)を経て、2005年4月に本学にご就任されました。2007年よりは2017年3月の退職まで10年間、学長として奉職されました。同時に、日本がん看護学会理事長、日本看護科学学会理事、日本生命倫理学会理事、がん医療研修機構理事などの要職も歴任されています。このように先生は、大きく転換する時代を背景に、看護(学)を取り巻く社会・教育環境が大きく変化するなか、先進的かつ最高レベルの看護学と看護教育を追求してこられました。

今回の受章は、この長年に渡るご専門のがん看護学・看護倫理学の研究、看護学教育の功績(特に専門看護師及び認定看護師の制度化)、そして我が国の看護(学)と医療の発展に対する多大な功績を称えてのことです。また本学でも、大学改革の波のなかで、リーダーシップを発揮され、社会の要請に先駆けて、様々な大学改革を推進し、地域における保健医療福祉系の高等教育機関として、学部および大学院博士前期・博士後期課程の教育や研究の充実・発展に取り組まれました。そして、それぞれの分野における高度な実践と教育・研究の人材を育成・輩出されました。今日の本学の発展に、大きく貢献いただきました。

今回の先生の栄誉を受け、その業績と誇りを受け継ぎ、次世代を担う優れた保健医療福祉の専門職業人とその指導者を育成していかなければならない。その思いを新たにいたしました。

2018年4月27日 (金)

「選ばれし者」

2018年度は、看護学部174名、社会福祉学部63名、リハビリテーション学部111名、助産学専攻科17名、大学院博士前期課程24名、博士後期課程12名の新入生を迎えました。新入生の皆さんが、保健医療福祉の未来を担い、聖隷の歴史と伝統を継承し、また自らの手によっても新たな歴史を創り上げていかれることを祈念いたします。

4月5日に挙行した入学式での学長式辞を掲載いたします。

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本日ここに、聖隷の精神と歴史をつなぐ、新入生の皆さんを、私たち聖隷クリストファー大学に迎えることができ、喜びと感謝の念に堪えません。401名の新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。皆さんの入学を心より祝福し、歓迎を申し上げます。そして、これまで皆さんを支え、この晴れの日をお迎えになった、ご家族の皆さまにも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えします。また、本日ご多用のなかご臨席くださいました、ご来賓の方々に、心よりお礼を申し上げます。今後とも、保健医療福祉の未来を担う、学生へのご支援をお願いいたします。

本学は、1949年の開学以来、キリスト教精神に基づく「生命の尊厳と隣人愛」を建学の精神として、保健医療福祉の人材養成に努めて参りました。今日では、看護学部・社会福祉学部・リハビリテーション学部の3学部と助産学専攻科、そして大学院博士前後期課程をも有する保健医療福祉の総合大学に発展しています。新入生の皆さんには、本学の恵まれた教育・研究と実践の環境を主体的に活用し、建学の精神に裏付けられ高い知識と技術を有する保健医療福祉の専門職業人に成長されますことを期待いたします。

さて、新入生の皆さんには、この入学式にあたって、私たちに与えられた3つの使命を、心に留め置いていただきたいと願います。

1つ目は、本学の建学の精神である「生命の尊厳と隣人愛」についてです。

まず皆さんには、聖隷の歴史は、「愛」の実践から始まったことを知ってほしいと思います。1930年、聖隷の事業は、当時まだ不治の病で、感染の恐怖から家族からも見捨てられ、住むところもなく、食べることもできなくなった結核病患者の方々と、共に生きることから始まりました。その運営は、筆舌に尽くせない迫害と困窮・困難を極めるに至ります。しかし、そのような中にあっても、先人はまさに聖なる神様の奴隷として、自らのすべてを犠牲に、一人ひとりの患者さんに愛を尽くされました。本学で学ぶ私たちは、先人が身をもって示した、この自己犠牲に基づく「隣人愛」の精神を深く理解し、実践できるよう努めていかなければなりません。しかし、利己心を超えて、隣人に尽くすことは決して容易なことではありません。されど、先人の生き方から自分自身の生き方を学び、隣人に労を厭わず愛を尽くすように努めていくことで、「隣人愛」を生きる人間に、自分自身を造り上げていくことができるでしょう。

2つ目は、保健医療福祉の専門職業人としての使命についてです。

本日皆さんは、「保健医療福祉の専門職業人プロフェッショナルになる」という明確な目標と、貴い使命を心に抱き、今日の日を迎えられました。人々の生命と生活を守り支える皆さんの使命は、価値高く献身に値するものです。しかし、プロフェッショナルには、学修者としての謙虚さと意志の強さ、専門職業人としての責任と社会性と倫理性、そして専門的な知識と技術の修得が必要です。その道は決して平坦ではなく、多くの困難や挫折があり、また長い道のりでもあります。しかしまた、プロフェッショナルとして、自分自身の能力を長期的な視点で開発していく道こそ、私たちは大切にしなければなりません。皆さんが、今日この場合の初心を深く心に刻み、生涯にわたる自己研鑚の道を歩まれることを願います。

3つ目の使命は、自己成長に対する責任についてです。

自己の成長は、自らに、その責任を負わなければなりません。皆さんには、失敗を恐れず、果断に挑戦する勇気をもってほしいと願いします。挑戦することは、必ずそこに苦しさや辛さ、悔恨の思いに打ちひしがれることもありましょう。しかし、その苦い経験の中から、成長を汲み出すことができると思います。私は、人間の弱さの中にこそ、真の人間の強さを見いだすことができると信じます。皆さんが試行錯誤を楽しみ、日々悩み、今日は昨日でない自分に、明日は今日でない自分に、自己成長されることを期待いたします。

本学は今、アジアを中心とした大学や研究機関との交流を促進し、グローバル化の発展に挑戦をしています。本年度も、中国とベトナムからお二人の留学生を迎えました。お二人の勇気ある挑戦を讃えたいと思います。

Ms. Nguyen Thi(グェン・ティ)and Ms.Yang(ヤン), welcome to Seirei Christopher University. I'd like to express my great pleasure and honor for your decision and courage to try overseas study at our university. I sincerely hope for your success and your country's success through these studies and experiences. Also, I hope you'll become a bridge between our countries.

さて大学院入学の皆さん、皆さんには、より高度の専門的知識と技術の修得を目指されます。ソクラテスは、「真の賢者は、己の愚(おろかさ)を知る者なり」と言います。皆さんは、自らの無知を自覚する謙虚さと、知を探求する真摯さを持った「philosophia(知を愛する人)」であると言えましょう。また、トマス・アクイナスは、「知識があっても、その用い方を知らなければ、不十分な知識をもっているに過ぎない」と言います。大学院生の皆さんが、新たな知の創造と技術の開発を目指し、また高い倫理性を備えた高度専門職業人、研究者・教育者に成長されることを願います。

結びに、イエス・キリストが最後の晩餐で、弟子に語った言葉を引用いたします。

『あなた方が、わたしを選んだのではない。わたしが、あなた方を選んだのである。それは、あなたがたが行って実を結び、その実がいつまでも残るためである』。

新入生の皆さんが、選ばれし者として、「隣人愛と知の技」を磨き、人々を安寧と幸福に導く「現代のクリストファー」に成長されますことを祈念いたします。

皆さんの挑戦する勇気と、困難に立ち向かう力を祝します。

2018年4月5日

聖隷クリストファー大学 学長

大城昌平

2018年3月14日 (水)

2017年度卒業式・修了式:未来への継承

3月5日、2017年度の卒業式・修了式を挙行いたしました。看護学部151名、社会福祉学部101名、リハビリテーション学部92名、助産学専攻科17名、大学院博士前後期課程16名が、聖隷の精神を胸に社会に巣立ちました。皆さんの自信と誇りに輝いた笑顔が心に残ります。以下に、学長式辞を掲載いたします。

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2017年度卒業式・修了式 学長式辞

70年前、私たちの先人は、三方原の地に「聖隷学園」を誕生させました。キリストの教えに基づいた、隣人愛に捧げられた学園です。そして今ここに、その信条を受け継ぐ卒業生・修了生の皆さんを、社会に送り出すことができ、感謝の念に堪えません。

本日、本学の学位授与方針に基づき、学士の学位を授与された学部卒業の皆さん、助産学専攻科修了の皆さん、修士並びに博士の学位を授与された大学院修了の皆さん、これまで皆さんが尽くされた努力と研鑽、そしてその成長に、心から敬意を表します。

そして、今日まで、皆さんの全てを支えてこられました、ご家族の皆様にも、深く感謝とお喜びを申し上げます。

また、日頃より本学の教育研究並びに諸活動にご支援・ご指導を頂いています、病院施設・諸団体の皆様、非常勤講師の先生方、地域の方々に、厚くお礼を申し上げます。

さて皆さんは、本日より本学の建学の精神である、キリスト教精神に基づく「生命の尊厳と隣人愛」に裏付けられた、保健医療福祉の専門職業人としての道を歩み出されます。本日、この新たな旅立ちの場において、今一度、私たちが何者であるか、本学での学びを再確認しなければなりません。

聖隷の歴史には、はじめに愛がありました。1930年、聖隷の事業は、当時まだ不治の病で感染の恐怖から忌み嫌われた、ひとりの結核病患者の療養支援から始まりました。その運営は、度重なる迫害と、困窮、困難を極めるに至ります。しかし、そのような中にあっても、先人は自らの全てを尽くし、身をもって隣人愛とは何かを示されました。本学には、この自己犠牲に基づく隣人愛の精神が、脈々と受け継がれてきました。私たちは、この聖隷の精神と歴史を、過去に作り出されたものではなく、自らの手によって、生きたものとして、未来へ継承していかなければなりません。

しかしながら、「隣人愛」の精神を、言葉としてではなく、生きた行為とすることは、決して容易なことではありません。

1953年、今日の聖隷グループの前身である当時の聖隷保養園に、ドイツからディアコニッセのハニ・ウォルフ姉妹を迎えました(ディアコニッセとは女性奉仕者をいい、姉妹は同士という意味です)。このハニ姉妹の手によって、私たちが実習等でお世話になっています、日本で最初の特別養護老人ホーム「十字の園」が設立されました。当時一緒に働かれた鈴木唯男先生は、このハニ姉妹から看護やケアの本質を学んだと、以下のように残されています。

引用いたします。尚、文中の「看護」という言葉は、リハビリテーションや福祉とも置き換えることができます。

<私たちはつい、大勢の患者さんの仕事をしていて、その仕事は流れていく。一人ひとりの患者さんに対する、心への呼びかけがないまま、仕事が流れていく。しかし、ハニ姉妹の態度から、看護はついでにしてはならないと、厳しく教えられた。ハニ姉妹は、一人ひとり新しい感覚で、その人の具体的な事実にふれて、はじめて「いかがですか」という言葉を発するのです。人格的なつながりが出来た上で、呼びかけをするということを、きちんとしていました。ほとんど私たちの仕事は、何も見ない、何も触れない、何もつながらない心で、「いかがですか」という言葉だけが、虚しく流れていきます。・・・・相手の心に染みわたるような、そして相手の心にうずきつづけるような、出会いや語りかけをするということが、どうしても必要です。いくら出会っても、それが流れてしまう、そういう出会いでは、そこに人格的なつながりは生まれてきません。本当の苦しみや悲しみが、そこでは感じ取れない、看護の対象にならないことを私は厳しく学んだ。> 以上です。

看護やリハビリテーション、福祉の仕事は、ついでにしてはならい、忙しいからという姿勢のままでしてはならない、目の前の、その人の心を感じ、寄り添い、何事も愛をもって行おうと努める。それが私たちの仕事の基本であり、「隣人愛」を実践することにつながるでしょう。

さて、大学院を修了された皆さんは、高度専門職業人、研究者・教育者として、倫理性と科学性、そして奥深い学識を修得されました。心より敬意を表します。これから皆さんには、各専門分野や組織のリーダーとしての活躍が期待されます。リーダーに求められる資質は、多々いわれますが、私がその一つをあげるならば、「創造的知性」を挙げたいと思います。哲学者ベルクソンは、現代の知性について、「思索人の如く行動し、行動人の如く思索する」と言います。創造的知性とは、新たな価値を生み出す構想力と行動力といえます。皆さんの精神性と学識、そして創造的知性を発揮され、それぞれの学問分野、組織、社会の発展に貢献されますことを期待いたします。

人間の生命や生活は、最も貴いものです。皆さんは、それを守り支える最高に貴い仕事に生きられます。しかし、貴いが故に、その道には多くの暗きがありましょう。

結びに、私たちが学んだ、長谷川保先生からの聖句を送ります。

暗きは必ず我をおおい、我をかこめる光は、夜とならんと我いうとも、

汝のみまえには、暗きものを隠すことなく、夜も昼の如くに輝けり

さあー、卒業生、修了生の皆さん、「隣人愛と知の技」で、与えられた使命に生き、人々の安寧と幸福を導く、クリストファーの道を歩み続けられますことを祈ります。

皆さんの、栄えある未来を祝します。

2018年3月5日

聖隷クリストファー大学 学長 大城昌平

2018年2月 5日 (月)

AIと人を支える仕事

1月2月は入試シーズンです。本学でも1月13〜14日はセンター試験会場となり、多くの受験生を迎えました。そして、2月1日は前期入試を行いました。今年度は12月9日に奨学生入試を実施した関係から受験生が分散しましたが、全体として例年並みの受験者動向でした。受験生の皆さんそれぞれが、希望に満ちた春を迎えられることを祈念いたします。 

急速に人口減少が進む中、産業界では人手不足が大きな問題となっています。それを補うため、IT(情報技術)やAI(人工知能)の技術革新が進み、最近では近い将来無くなる仕事というセンセーショナルなニュースが度々報道されています。現在では花形の仕事もロボットやAIが雇用を奪いかねないといわれています。一方、人の健康や生活、社会参加を支える看護師やリハビリテーションの専門職者(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)、介護福祉士などは、人の手でなくてはならない、機械やテクノロジーでは決して補えない仕事です。それは、それらの仕事が人の痛みや苦しみ、喜びを感じとり、手を差し伸べる人間特有の創造的な仕事だからです。 

2025年には65歳以上の高齢者が30%を占めるようになります。高齢化が進むにつれ、元気な高齢者が増える一方、病気や障がい、生活に困難を抱えた人々も確実に増えていきます。近い将来、このような人々を支える仕事の価値が高まる時代になると予測されます。しかし、その認識は、当事者でなければまだまだ不足しているように思われます。人々を支える仕事の大切さ、それを担う人材養成を社会全体で考えなければなりません。 

これから世の中がどのように進んでいくのか、私たちはその分岐点にいます。そのような中、その変化の方向を俯瞰するとともに、より大切なことは人々や社会の必要は何かを考え果敢に挑戦することでしょう。その上で、進学や進路を考えてほしいと願います。