「アンパンマン」
新緑がまぶしい季節となりました。木々の芽吹きに、命の息吹を感じます。大学でも、学生の皆さんが日々の学修に向き合いながら、新たな自分へと成長している様子を目にし、嬉しく思います。
さて、私の日々の楽しみのひとつが、NHKの連続テレビ小説『あんぱん』を観ることです。このドラマは、「アンパンマン」を生み出したやなせたかしさんと、妻の暢(のぶ)さんの人生を描いた作品です。
アンパンマンは、私の子どもたちも幼いころから絵本やテレビで親しみ、大好きだったキャラクターです。アンパンマンが初めて絵本に登場したのは1973年*。物語では、砂漠の真ん中で遭難し空腹に苦しむ人のもとへ、アンパンマンが破れかけたマントをひるがえし飛んでいきます。そして、ひざまずいて自らのあんぱんでできた頭を差し出し、「さあ、ぼくの かおを たべなさい」と言ってその人を救うのです。私はこのひざまずいたアンパンマンの姿に、イエス・キリストが「最後の晩餐」の場面で弟子たちの足を洗う姿をみました。
絵本のあとがきには、次のようにあります。「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこいいものではないし、そして、そのためにかならず自分自身が深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくして、正義は行えませんし、・・・」
自分を犠牲にして人を救うアンパンマンに、子どもたちはこの世界への信頼と愛、そして勇気と希望を感じ取り、人間の真の幸福とは何だろうと気づいていくのだと思います。「アンパンマン」は普遍的な価値観と人間の本質を考えさせる作品なのでしょう。
*フルベール館月間絵本「キンダーおはなしえほん」10月号で、「アンパンマン」はひらがなの「あんぱんまん」でした。