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2016年1月29日 (金)

吃音のおはなし

言語聴覚学科の谷哲夫です。

今回は吃音のおはなしをします。はじめに私自身のことを記すことになりますがご容赦ください。

私は言語聴覚士です。言語聴覚士になった理由のひとつは、私に幼少のころから吃音があったことです。「ぼく」とひとことを言うのに「・・ぼ・・ぼ・・ぼ・・ぼーーく」と顔を歪めながらやっと話していました。幼稚園では、朝、私が教室に入ろうとすると子供たちが私の周りに集まってきました。人気者だったわけではありません。子供たちは私が「おはよう」と言うのを待っているのでした。私が「・・お・・お・・お・・」と言っていると子供たちは「お、お、お、だってー!」と言って大笑いしました。小学校では自分の言葉を気にし、ストレスが溜まりました。このころ経験した“集団の中の居心地のわるさ”は現在でも影響を受けています。勉強も嫌いになり成績はかなり下の方だったと思います。テストでたまに良い点でも取ろうものなら、担任の先生から「人のものを見ただろ!」などと追及されてしまいました。そんな日々が続き、幼少から学齢期にかけて、あまり良い思い出はありません。

 吃音は上記のように、幼少時に生じることがほとんどで、言語発達の途上であることから発達性吃音と呼ばれます。吃音の大きな問題点は、言語症状のみならず心理面に影響を及ぼすことです。吃音を持った自分を肯定できず、社会不安障害になって外出できなくなる人も少なくありません。しかし、発達性吃音のなかった人が、脳卒中後に吃音を発症してしまうことがあります。これを神経原性吃音といいます。両者は似た症状なのですが異なる特徴もあり、本質的に同じものなのかどうかわかっていません。私は言語聴覚士として多くの脳卒中患者さんと関わるうちに、神経原性吃音を詳しく調べれば発達性吃音の発症原因に近づけるかもしれないと思うようになりました。以来、神経原性吃音を発症した患者さんのデータを分析して研究を続けてきました。

 我々の研究では現在、次のような知見を得ています。①これまで言われていた発達性吃音と神経原性吃音の違いは、対象者の年齢の違いや、吃音の発症からの経過が異なるために観察されたことであり、これらを統制した研究が必要であること。②神経原性吃音は脳の様々な部位の損傷で生じるために責任病巣の特定が困難といわれていたが、失語症を伴わない純粋な神経原性吃音患者の損傷部位を調べてみると、大脳基底核の被殻という場所が共通した損傷部位であったこと。③被殻損傷の神経原性吃音の発話症状は発達性吃音とかなり類似していること、などです。

 今後、吃音の原因究明と治療法開発に貢献できるよう、データ分析を積み重ねてまいります。

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St2

脳卒中後に失語症を伴わず吃音のみが生じた代表例2名の脳の画像です。左半球の被殻という場所の損傷が共通しています。