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2019年3月29日 (金)

2018年度卒業式・修了式:建学の精神の継承

3月12日、2018年度の卒業式・修了式を挙行いたしました。看護学部151名、社会福祉学部84名、リハビリテーション学部105名、助産学専攻科17名、大学院博士前期課程17名、博士後期課程4名が、聖隷の精神を胸に社会に巣立ちました。皆さんの自信と誇りに輝いた笑顔が心に残ります。以下に、学長式辞を掲載いたします。

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2018年度卒業式・修了式 学長式辞

本日、本学の学位授与方針に基づいて、学士の学位を授与された学部卒業生の皆さん、修士並びに博士の学位を授与された大学院修了の皆さん、そして助産学専攻科修了の皆さん、これまで皆さんが尽くされた努力と研鑽、そして成長に、心から祝福を申し上げます。誠におめでとうございます。

また今日まで、学生皆さんの生活、学習、研究を支え、大学運営にもご支援ご協力いただきました、ご家族の皆様に、お慶びと感謝を申し上げます。誠におめでとうございます。

そして、日頃より本学の教育研究・運営にご支援ご指導を頂いています、病院施設・諸団体の皆様、非常勤講師の先生方、地域の方々に、心より感謝を申し上げます。誠にありとうございます。

 

さて、卒業生の皆さんは、本日より、本学の建学の精神であるキリスト教精神に基づく「生命の尊厳と隣人愛」に裏付けられた保健医療福祉・教育の専門職業人としての道を歩み出されます。人々の生命と健康と生活を守り支える皆さんに与えられた使命は、最高に貴いものであります。その貴い使命に、日々尽くされますことを願います。

 私たちの精神と使命について、本学の前身である聖隷学園浜松衛生短期大学の時代に書された一文がありますので、紹介いたします。「人の生命は、傷つき、病み、死ぬべき弱い存在である。自分と他者が共有している、この人間の弱さの自覚と共感と互助こそが、人間理解と愛と感動の基本である。」という文章です。

 

人間は思い悩み、傷つき、病気や障害を抱え、老い、そして死にゆく定めの弱い存在である。しかし、この一文は人間の弱さに着目しつつ、その内にある人間の強さをも明らかにしています。病気や障害、老い、死の恐怖に耐えることは、生きることの尊さ、命の尊さを知ることでもあります。苦しみや悲しみを抱え、与えられた苦悩を受容する態度は、謙虚に物事を内省し、内なる精神世界を充実させるでしょう。私たちの望まない試練が、人間を強くするということは真実でもあります。人間は弱さを通じて、成長し、成熟し、尊厳ある強い存在へと昇華していく。

このように、人間の「弱さ」を、人間理解の基本に据えることで、そこに人間の真の強さとしての「生命の尊厳と隣人愛」の精神が生まれる。これが本学の教育理念のルーツであります。

皆さんの仕事は、この人間の弱さに、直に向き合う仕事です。それは、対象者に寄り添いつつ、自分自身の弱さに向き合うことに他なりません。それは、苦役を伴うことでもあります。しかし、私たちもまた、その苦役を通して、自分に与えられた使命の価値を知り、人間として、専門職業人として成長することが出来るのだと思います。それが、仕事から得られる報酬であり、喜びであり、感謝であり、生きがいであり、人間の幸福であるといえます。

このように考えたとき、皆さんに課された仕事は、単なる義務や経済としての「職業」ではなく、「天職」と呼ぶことができるでしょう。私は、人にはそれぞれに与えられた天職があり、その天職を全うすることが価値のある生涯を送ることになると信じます。皆さんが、それぞれに与えられた仕事を愛し、その貴い使命を生きられますことを願います。

神学者・哲学者であるアウグスティヌスの言葉です。「謙虚さのあるところに尊厳があり、弱さのあるところに強さがあり、死のあるところに生がある。何かをなそうと思えば、決してそれらを見下してはならない」

 

さて、大学院修了の皆さんは、高度専門職業人、研究者・教育者としての倫理性、科学性、そして奥深い学識を身につけ、各専門分野の発展に貢献されました。心より敬意を表します。

これから皆さんには、各専門分野の学術研究・教育並びに組織のリーダーとしての活躍が期待されます。リーダーに求められる資質は多々ありますが、私がその1つをあげるならば、「創造的知性」を挙げたいと思います。現代の知性人とはいかなるものか、哲学者ベルクソンは「思索人の如く行動し、行動人の如く思索する」といいます。創造的知性とは、歴史を尊重しつつ、新たな価値を生み出す構想力と行動力といえます。皆さんが修得された精神性と学識、そして創造的知性を発揮して、それぞれの学問分野、組織、社会の発展に貢献されますことを期待いたします。

 

卒業生・修了生の皆さん、皆さんの人生は、今日この時・この場から始まると言っても過言ではありません。私たち教職員は、皆さんの幸福を心から願います。しかしその幸福は、成功や不成功という次元ではなく、自らの幸福を脱ぎ捨てることのできる者、他の人の幸福を支えることのできる者、すなわち隣人を愛する者であることを、私たちは学んできました。その真の幸福観をもって、あらゆる困難に立ち向かって欲しいと願います。

 

結びに、皆さんが、「隣人愛と知の技」で、人々の安寧と幸福を導く、クリストファーの道を、歩み続けられますことを祈念いたします。そして、皆さんの幸福なる知性を祝します。

 

2019年3月12日

聖隷クリストファー大学 学長 大城昌平