“呼ぶ声”
先日、ある学会から「世代を超えてつながる」というテーマのシンポジストを依頼されました。深く考えずに引き受けたものの、「若い世代の方が集まる場で、一体私に何が語れるのだろう……?」と、すっかり自問自答の日々に陥ってしまいました。そんな時、ふと「今考えていることを話しては」という“呼ぶ声”が聞こえてきました(幻聴ではありません!)。
今、向老期にある私の関心事の一つは「老いと死」です。関連する本を読み進めるうちに、図らずも自分自身のこれまでの歩みを振り返ることになりました。そのようなことが、“呼ぶ声”になったのでしょう。
記憶をたどる中で思い出したのが、青年期の光明となったのが神谷美恵子さん(1914年- 1979年、精神科医・著作家・翻訳家)の著書『人間を見つめて』(みすず書房)の一節でした*。そこには、次のような趣旨のことが綴られています。
「青年期、自分は何をすべきか悩み迷うが、早くから進むべき道が分かっている人ばかりではない。人生の思いがけない出会いやきっかけが、人をある方向へと導いてくれる。大切なのは、何か“呼ぶ声”が聞こえたときに応じられるよう、耳をすまして自分を準備しておくことだ」ということが綴られています。そして、国連事務総長だったハマーシャルドの「使命がわれわれを探しているのであって、われわれが使命を探しているのではない」という言葉が引かれています。
当時、この文章を読んだ時、私の中でコペルニクス的な発想の転換が起きたことを鮮明に覚えています。私たちはつい、「自分の進むべき道、やりたいこと」をあれやこれやと探し求めがちですが、そうではない。向こうからやってくる“呼ぶ声”に素直に従う。そのために、いま目の前にあることに注力し、準備しておくことが大切なのだと教えられたのです。
いま、将来が見えなくて焦ったり、不安を感じたりしている人もいるかもしれません。そのような時、耳をすましながら、目の前の大学生活を丁寧に過ごしてみてください。きっとあなたを探している“呼ぶ声”が届くことでしょう。
*「人間を見つめて」みすず書房 神谷美恵子コレクション