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2024年4月 8日 (月)

聖隷の歴史:三方原の地

 今年の桜の開花は、開花直前での低温の影響が響いて、平年より遅い開花となりましたが、入学式(4月2日)に合わせるように満開の時期を迎えました。キャンパスも新入生の皆さんを迎え、明るく活気づいています。

 今年の入学式での学長式辞のテーマは、本学が所在する三方原の地についてでした。三方原は、浜松市の中心部(浜松駅)からは遠く、不便を感じるかもしれません。しかし、便利さは物事の本質を見失う危険があるようにも感じます。不便さの中に、本当に人が求めている『大事のモノ』見えてくるのではないでしょうか。三方原の地での学ぶことの意味を、新入生の皆さんに知ってほしいと思います。

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2024年度入学式 学長のことば

 

 新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。皆さんの入学を心より歓迎し、祝福いたします。皆さんが、本学の建学の精神である「生命の尊厳と隣人愛」を人間形成の基盤として、保健医療福祉及び教育・保育の専門職職業人に成長できるよう応援いたします。

 ご家族の皆様に、お慶び申し上げます。新入生一人ひとりが、それぞれの目標を達成できるよう、教職員一同務めてまいります。ご協力のほどお願いいたします。

 また本日ご多用のなか、ご列席いただきました、ご来賓の皆様に、心よりお礼を申し上げます。今後とも、私たちの未来を担う学生に、ご支援ご指導を賜りますようお願いいたします。

 

 さて本日の入学式にあたって、新入生の皆さんに本学の歴史と建学の精神、そしてその学びについてお話いたします。

 聖隷の事業は、1930年、創立者である長谷川保ら若きクリスチャンが、結核病患者の保護を始めたことから始まります。当時、結核の死亡率は人口10万に対し200人を超え、死の病と恐れられていました。これは新型コロナウイルスのパンデミックのときの約3~4倍にあたると言われます。ですから、その世話をすることは、社会から迫害を受けたり、自らも感染し命を失うリスクを負うということです。なぜ、創設者たちはそのようなことができたのでしょう。それは、クリスチャンとして、困った人、助けを必要としている人に尽くすことが、神様に仕え、隣人愛を実践することであると信じたからです。

 

 事業は当初、浜松市中心部の入野村(現在の蜆塚一丁目辺り)に粗末なバラックづくりの療養施設「ベテルホーム(神様の家という意味)」を建て、始められました。しかしそこで、地域住民からの度重なる厳しい迫害を受け、立ち退きを迫られます。そして止む無くそこを追われるようにして、当時、林野であった現在の三方原に移り、「聖隷保養農園」を開設します。

 その後、聖隷の結核病患者の救済事業をきいて、全国から患者が次々と集まって来ます。しかし、三方原でも再び迫害運動が激化し、加えて大恐慌の影響もあって経営面でもひっ迫し、困窮状態に陥ります。当時の記録には、このようにあります。「奉仕者や看護師たちは食事を用意することも難しくなって、どうにかしてまず患者に食事をさせ、その残飯を雑炊にして食べるのが常であった。」

 このように、聖隷の創設者たちは過酷な状況のなかで、自分たちの命、生活、全てを犠牲にして、病気や障害を抱えた人々の命を守り、生活を支え、愛を尽くされました。このような創設者たちの生き方が、私たちの建学の精神である「生命の尊厳と隣人愛」です。この建学の精神を兼ね備えた保健医療福祉及び教育・保育の専門職業人を育成することが、私たちの使命であり、教育目標です。

 

 現在、私たちの先人が開拓した三方原には、聖隷三方原病院をはじめ、高齢者や障害児・者の施設、聖隷学園のこども園・小・中高等学校など20を超える施設があります。そこでは、隣人愛の精神を具現化した質の高い医療、ケア、教育が提供されています。そして、この地から派生した同じ聖隷の精神をもつ聖隷福祉事業団をはじめとした病院・施設が全国に発展しています。また、この地で育った15,000名を超える卒業生・修了生が、国内外で、それぞれの仕事に従事しています。

 

 今日から皆さんも聖隷の一員です。これから皆さんは、三方原の地で、精神を磨き、それぞれの専門的知識と技術を習得します。私は、対人援助職において、知識や技術もさることながら、それ以上に、その人の人柄や人格が大切だと考えています。それは、対人援助職の仕事は、その人の人格を基盤とした他者との関係性の上に、知識や技術が有効かつ効果的に発揮されるからです。

 

 青年期の皆さんは、人格形成の大切な感受期にいます。そのような皆さんにとって、どのような環境に自分自身の身を置くかということが、極めて大切です。なぜなら、人間は環境から働きかけられ、また環境に働きかけることで、自己を形成していくからです。あなた自分自身の身を置く環境が、あなたの人格の現れであるとも言えます。

 私たち聖隷クリストファー大学は、聖隷発祥の三方原の地で、また聖隷の精神の根づいた病院・施設で、建学の精神を身をもって体感し、知と技を磨く、生きた学びを実践することが、私たちの最も大切な普遍的・教育的価値であると考えています。

 

 新入生の皆さんが、創設者から今日まで受け継がれる「生命の尊厳と隣人愛」の精神を継承し、人々の命と幸福に尽くす保健医療福祉及び教育・保育の専門職業人に成長されることを願い、学長のことばといたします。

2024年4月2日

聖隷クリストファー大学

学長 大城昌平

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