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2018年11月

2018年11月30日 (金)

心の医療と教育

先日、第63回日本新生児成育医学会・学術集会に参加いたしました。教育セミナーのコメンテーターと、サテライトセミナーの講師をさせていただきました。本学会は、乳幼児の成長と発達を支援する医師や看護師など医療職者を対象とした学会です。今回の学会でも、科学的根拠に基づいたエビデンスベースの医療(evidence-based treatment/practice)の研究成果が示されています。一方、教育講演やシンポジウムでは、医療における心への語りかけの医療ナラティブ・アプローチ(narrative-based approach)の大切さも指摘されました。その両者の視点と感性を持つことの大切さを改めて感じた、あたたかく素晴らしい学会でした。

 

日本における新生児医療は世界のトップレベルです。いわゆる未熟児の赤ちゃんの救命率は他の先進国と比較して高く、看護ケアも赤ちゃんと家族に大変優しいケアが推進されています。赤ちゃんの救命とともに、tender loving care(優しく思いやり深いケア)、family-centered care(赤ちゃんと家族を中心としたケア)が我が国の新生児医療の基本理念になっています。それは日本の医療者の相手の心をおもう繊細さによるものでしょう。

私達は、その医療者の心を大切に育成しなければなりません。ややもすると、科学的な根拠に偏った心を忘れた医療に流れていくきらいも感じます。医療は、科学的根拠に基づいた治療やケアを適切に活用するとともに、その背景には対象者の心のケアがなされなければなりません。「サイエンスとアート」と言われる所以です。

赤ちゃんもまた心を持った存在です。心の発達基盤となる快・不快を表します。その心の状態を察知して、その心に寄り添うケアを行うことで、赤ちゃんのあたたかな心が育ちます。愛された人(loved one)は、自分自身をも愛すべき者(lovely one)に、やがて人を愛する者(loving person)へと成長していくでしょう。

 

本学の歴史の始まりには、はじめに愛がありました。当時は、医療者と医療を受ける人々の心の交流と癒やしに基づいた医療でした。私たちは保健医療福祉を担う専門職業人を育成する教育者として、先人が実践してきた愛による癒しの医療を再確認し、そしてそれを支える医療者の心をも大切に育成することを再認識した学会でした。